こんにちは、魚屋「中村商店」の仲買人、仲買達人(なかがいたつと)です。
今回は鳥取県の夏を代表する味覚の一つ岩ガキについて話します。 6月に漁が解禁となり、8月末まで漁が行われます。県内で漁獲される天然岩ガキは「夏輝(なつき)」というブランド名で販売しています。資源保護のため殻高10cm未満、200g未満のものは採補しないように徹底しています。
「岩ガキはオス、メスどちらが美味しいの?」と、お客様に聞かれることがありますが、返事に困ります。なぜなら、サザエやアワビ等の多くの貝類は、生殖腺の色がオスは白、メスは暗緑色なので、判別できるのですが、岩ガキは、殻を開けても中身は、どこも真っ白。見た目はもちろん、開けてもオスかメスかの区別がほぼつかないのです。
岩ガキは、産卵期の栄養状態で性別が決まります。栄養状態が悪いとオスになり、良いとメスになります。これは、精子よりも、卵を作る方が「エネルギーを多く使う」からと考えられます。そのため個体によっては、産卵期ごとにオスになったりメスになったりするものもいます。
メスの方が美味しいという方もいますが、実際性別が分からないので、どっちが美味しいとかは断言でないのです。食べた後にクリーミーさを多く感じるのが、栄養状態の良いメスなのかもしれません。
鳥取県沖では、8~9月が岩ガキの主な産卵期で、期間中少しずつ産卵します。卵はかなり小さく、卵の直径は0.05mmと髪の毛の太さより小さいです。1個体で5000万個以上もの卵を海中に放出します。放出された卵から孵化後、約 2 週間をプランクトンとして海中を浮遊し、生涯を過ごす安住の地を探します。
岩ガキは付く場所を選り好みします。幼生期を終え、気に入った場所を見つけると、セメント質の分泌物を出し、左殻(左右があるのです)を岩盤や、消波ブロック等の人工構造物等に身を固着させます。中でもお気に入りの場所は、何と新品のコンクリートブロック!気に入った場所に身を固定して生活を始めます。
ただ、岩ガキの幼生は、一度他の岩ガキが付着した場所には付かないという残念な現象が起こっています。水際にある天然の岩は海が荒れた際、砂が舞い上がり岩盤の表面が削られるので、岩ガキの幼生が付着しやすい場所を提供することができます。しかし、公共工事などで使用されるコンクリートブロックは、漁港などの静穏域に設置されていることが多く、砂で削られるようなことはなく、一度岩ガキを漁獲すると、その後にフジツボ等のライバル生物が付着面を覆ってしまい、岩ガキの幼生が付着する場所がなくなってしまうのです。
そこで鳥取県の生産現場では、安定的な漁獲が続けるため、岩ガキの幼生が付着しやすいよう、幼生の付着時期にコンクリートブロックの表面を掃除する独自の手法を開発するなど、たゆまぬ努力が続けられています。
岩ガキの漁獲は、多くが素潜りで行われます。深いところでは水深15mを「一気に潜り、漁獲可能な大きさの岩ガキを見つけて当たりを付けたら一度浮上し、次の潜水でカキおこしというバールのような鉄製の器具で削り落とし、また浮上する。」といった作業が繰り返されています。水圧や冷えに耐えながら、手間暇かけて漁獲される鳥取県の海の恵み、岩ガキ「夏輝」1個ずつ大切にお召し上がりいただければと思います。
店では、プリップリの身を生で楽しまれることが多い岩ガキですが、焼いても絶品です。殻ごと焼いて(殻が熱くなるので軍手・ナイフ必須)、ジュワッと旨みあふれるぷっくり焼きガキもオススメです!焼きガキにもレモンやポン酢はよく合いますよ。
岩ガキは生息場所により、味も見た目も異なります。日の当たりが良いところの日焼けした黒っぽい殻のカキと、日陰で殻が色白のカキがあります。日焼け度でオスメスは判断できませんが、さて、どちらの岩ガキの味がお好みでしょうか?是非食べ比べしてみてください。
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